ことばの遅れ

療育に通われるきっかけとなるお母さんたちのお困り事。

私の勤めている事業所では入所時の面接で申込書に入所時の主訴を書いてもらいますが

  • ことばの遅れ
  • かんしゃくがひどい
  • 集団に入れない
  • 落ち着きがない
  • 偏食が強い
  • 排泄ができない

などが多いです。

お母さんたちも日々の生活に追われ『なんでできないの!』とイライラすることも多いと思います。
ましてや私もそうですが自分の子供だとできないことが目につきます。
うまく対応できないことも多く、お母さんたちの困り感に繋がっていくのだと思います。
今回は一番主訴として多い、ことばの遅れについて話したいと思います。

何らかの原因でことばを話すことができない、理解ができないということからコミュニケーションがとれずお母さんたちは困られることが一番多い訴えです。

 

『話す』

1歳過ぎて『ママ』『ワンワン』『ブーブ』などの簡単なことばを話しますが2歳過ぎても話さない、3歳過ぎても単語しか話さない、などことばの遅れが気になり出すと思います。
たまに話していたのにある程度大きくなると突然話さなくなるお子さんも中にはいます。
しゃべらない、ということでお母さんたちがお子さんの発達のゆっくりさに気づくことが多いと思います。

一般的にことばが出るためには話しかけること、といわれています。

ことばの器があって話しかけることでその器がいっぱいになって溢れたときにことばが出る、といわれています。

ことばかけをすることがことばを促す働きかけではありますが
ただやみくもに千本ノックのようにことばかけをすればいい、とわめいうものではありません。

お子さんの気持ちを代弁することばかけが有効だと思います。

例えば少し単語が出ているお子さんが赤いお花をみて『アカー』といったとします。
そしたら『赤いお花だね』と大人が代弁してあげることでお子さんの中で『こういう風にいえばいいんだ』と

私が担任してたYくんはやはりことばを話さない、ということで療育を受け始めました。

最初は気に入らないことがあると泣き叫ぶお子さんでしたが3歳になる年の母の日に『ママ』と初めてことばを話しました。

『最高の母の日のプレゼントです』とお母さんは話していました。

なんとそのYくん、その後みるみることばを話し出し、今は小学生になりましたがかなりお話が上手になっているようです。
彼はことばだけでなく、彼の中でスイッチが入るとできるようになるお子さんだったので『ことばを話すスイッチ』が、母の日に入ったのでしょう。

また、話すことはできても自分の話したいことだけ話してコミュニケーションの手段としてことばを使えないお子さんもいます。

 

『発話の不明瞭さ』

また、話していても不明瞭で何をいっているかわからない、というお子さんも多いです。
これは口の機能的な問題があることもあります。
その場合舌の使い方を言語聴覚士のもとで訓練を受けることで改善することもあります。

私が担任したお子さんで舌小帯の異常があり、術後改善したケースもありました。
一概に不明瞭さの原因を特定することは難しいですが
発達のゆっくりさがあるお子さんは独特のイントネーションで話すことも多いです。

年齢を重ねると変わることもありますが、変わらないお子さんもいます。

Hくんという当時4歳のお子さんは、ことばは話せますが発音が不明瞭で何を話しているか慣れた人でないとわからない、という状況でした。

私は担任だったのでだいたいわかるのですが、他の職員からすると『よくわかりますね』といわれることも。

Hくんに『ディーディーシー行ったんだ!』といわれて『そうか~楽しかった?』と話していたら他の職員がポカーンとしていたことがありました。
ディーディーシー=ディズニーシーだったんです。

彼の会話の傾向からわかりましたが慣れてない人にはわからなかったようでした。

 

『発話以外の方法もある』

少し前に『自閉症の僕が飛び跳ねるわけ』という本で話題になった東田直樹さんは、ことばを話すことは苦手ですが文章を書くことは得意で自分の思いを伝えることができています。

自分の思いを文章で伝えることができるため本を出版することもできるようになりました。
物語も書いており、彼の書いたお話が絵本にもなっております。

また、マカトン法やハンドサインで、自分の思いを伝えられる方法もあります。

私の事業所で、母親とのふれあい遊びというものをやりますが、
話せるお子さんは自分のやりたいふれあい遊びを自分で伝えることができますが、
話せないお子さんに関しては絵カードを使ってやりたい遊びを指差してもらったり
○×カードを使ってYES-NOを伝えてもらうことをしています。

親御さんからすればことばを話してほしい、と言う気持ちはあるかと思いますが
それ以外の方法もあるので、どうしても話せないお子さんはあまり話しことばにこだわらないことでお子さん自身気持ちを伝えられるようになるかもしれません。

 

『言語理解』

話すことはできるけどこちらがいっていることが理解できずに指示に従えない、
また逆に話さないけどこちらのいうことは理解しており、指示に従えるというお子さんもいます。

私が担任したSくんという男の子はかなり口は達者でしたが、
5歳の頃ラーメンとうどんの区別がつかない、救急車と消防車の区別がつかない、と言ったお子さんがいました。

またLちゃんという女の子もお話は上手でしたが、就学判定の知能検査のWISCーⅢでは測定不能、田中ビネーもかなり低い数値で結局特別支援学校へ入学したお子さんがいました。

逆のパターンもあります。
Kくんという男の子も6歳当時、ほぼ発話はありませんでした。しかしある日カードマッチングをやった時に絵カードは完璧にマッチングができたのですが、驚くべきことに文字のマッチングも完璧でした。
彼は話せませんでしたが、文字も理解していたのです。
そして特別支援学校へ入学し、2年生頃から話し出しました。

このように発語があるから理解できている、というものでもなく、
発語がないから理解できないというものではありません。

また、発達のゆっくりさがあるお子さんの多くは視覚優位といって、耳から入る情報より目から入る情報の方が理解しやすい、という特性を持っていることが多いです。

口で言っても理解できないけど
写真や絵などを見ることで理解できることもあります。
また、ちょっとした裏技ですが、声を出さず口の動きを読んでもらうことで伝わることもあります。

成年施設に勤めていたときに聴覚の過敏さがあるTくんという方がいました。
彼は私たちにはわからない不快な音があるようで耳をふさいで大声を出すパニックを起こす方でした。

その時に部屋で一人で落ち着くまで過ごすのですが時々部屋に行って

口パクで『お静かに』というと
本人も『お静かに』と返してきて落ち着くことがありました。

それから対人関係が苦手なお子さんは
対人関係の苦手さから相手の意図が汲めず、質問に答えられない、わからない、ということがあります。

Mくんという当時4歳のお子さんがディズニーランドへ行ったというので
職員が『ディズニーランドで何に乗ってきたの?』と聞いたところ

『ベビーカー』と答えました。

これは職員としては『ディズニーランドのどのアトラクションに乗ってきたか』を聞いたのですがそれがわからず
Mくんは『ディズニーランドでベビーカーに乗っていた』ことを伝えてきたのです。

言語理解には知的な課題もありますが、対人面の弱さも原因としてあげられることがあります。

 

まとめ

『ことばの遅れ』といってもお子さんによって色々です。

割と多くのお母さんが『うちの子はことばをしゃべらないだけだから』ということがありますが、
私が見ていて、ことばだけでないよなぁ、と思うことも多々あります。
また『これをやれば必ず話すようになる』という方法もありません。

人によっては話し始めるまで、通所し始めて1か月で話すようになったお子さんもいれば
何年か経って話し出す子もいます。
また、ずっと話すことができないお子さんもいます。

それでも本人とまわりがコミュニケーションを取れる方法はあると思います。

  

※この記事は個人の感想、経験からくるものであり、当サイトが内容を保証するものではありません。